< オーディオビジュアル・インストレーション : スペシャルケース >
東京原宿キャットストリートに誕生した、コーヒーとカルチャーを融合した4フロアの感覚体験スペース「QUARO(クアロ)」。「ろ過」をテーマに、都市の速度に疲れた人々が五感を呼び覚まし、自分のリズムを取り戻す……そんな空間にふさわしい音響設計とは? QUAROのマネージャーである佐々木彩人氏、空間設計を担当したSUPPOSE DESIGN OFFICEの銭嘉玥氏、音響設計施工を担当した日本レディフュージョンの伊藤寛武氏に、コーヒーと音楽の関係性について話を聞きました。
(写真右から)
QUARO マネージャー 佐々木 彩人様、SUPPOSE DESIGN OFFICE 銭 嘉玥様、日本レディフュージョン 伊藤 寛武
「音が落ちてくる……」コーヒーとともに新しい体験にひたり、五感が呼び覚まされる
QUARO キャットストリート側より
佐々木: 4層構造のビル1棟から成る「QUARO(クアロ)」は、「QUAD / QUATTRO(=4)+RO (濾・ろ)」を結んだ造語になります。階層と抽出という2つの意味が込められて、お店の名前になりました。
賑わいのある裏原宿の地に、喧噪から離れて「自らの五感を取り戻すような場所をつくりたい」というオーナーの想いから誕生し、コーヒーから感じられる香りや味わい、光の温度や流れる音にこだわっています。
コーヒーを提供するフロアは地下1階から2階までとなり、フロアによってコンセプトやメニュー、そしてお客様が得られるインスピレーションも異なるのが特徴です。
QUAROのオーナーは非常に探求心が旺盛で、個人では到底持たないようなコーヒーの抽出ツールをコレクションしているなど、一つひとつにこだわりを持っています。
QUAROマネージャー 佐々木彩人氏
銭: 空間設計を担当した際、オーナーさんから「このブランドのスピーカーを使いたい」といったお話もいただきました。ただ、実際の空間に相応しいかどうかは緻密な計算が必要ですし、コスト面もふまえて考えたいと思いました。
そこで、海外製品も含めて幅広い音響機器を取り扱う日本レディフュージョンさんに音響設計を依頼し、オーナーさんのご要望も伺いつつ検討していきました。
伊藤: 「天井の穴から音が落ちてくる」といった珍しい音響設計も担当させていただきましたね。QUAROのように各階のコンセプトが異なっており、それゆえに各階に合わせて全く異なる音響設計をする必要があるという事例は珍しいものでした。フロアごとにコンセプトと内装デザインとの調和に配慮しながら、最適な音響機器を選定して設置していきました。
佐々木: 一杯のコーヒーを、例えば音のない空間のなかで飲むのと、音楽が流れているなかで飲むのでは味わいにも影響があり、得られる感覚が異なるものです。五感のひとつを刺激する音楽は、カフェにとって本当に大切な要素だと思います。
じつはQUAROのお客様の8割は、裏原宿という場所柄もあって海外の方なんです。海外には、朝から外出してコーヒーを飲む文化が定着していることもあり、ホテル滞在中に毎朝QUAROに通ってくださるお客様もいらっしゃいます。「味も雰囲気もいいし、最高だよ」と伝えられることもありますよ。
光に満ちる穴から、音楽が聴こえる――コーヒーの世界に没入できる地下1階
地下1階 ALCHEMY 完全予約制の特別コースの提供
銭: 変容(Alchemy)と名付けられた地下1階のフロアでは、QUAROのなかで一番贅沢な体験をしていただきたいと考えました。
天井には、空にぽっかりと開く穴を思わせる開口部があり、ここから光も音も落ちていきます。
伊藤: 銭さんから、“天井に開いた穴から光が降り注ぐ”という空間設計のコンセプトをお聞きしてひらめき、
「例えば、音が落ちてくる音響設計はいかがでしょうか?」とご提案させていただきましたね。
天井からは、音楽に加えて鳥のさえずりのような自然の音も聴こえてきます。この開口部には、イタリア製のロープ状スピーカーK-ARRAY Anakonda-KAN200+8を2台、円周に沿って外側に見えないように設置しています。
実際に導入してみると、想定以上に天井の穴から音が鳴っているように感じられましたね。
Anakonda-KAN200+8はロープ状のスピーカーということもあり、あらゆる形状に対応してくれるのですが、今回のような形で導入したのは初めてのことでした。
SUPPOSE DESIGN OFFICE 銭嘉玥氏
佐々木: お客様をエレベーターで地下1階にご案内したときから、フロアの雰囲気に「すごい!」と驚かれることが多いですね。このフロアでは、東京でも限られたコーヒー店だけが用意する特別コースをご提供しています。(完全予約制。詳細は記事末をご覧ください)
音響については「上から音が降ってきて、ふわっと包み込まれるよう」「私が今ここにいるのが、ちょっと不思議な気分」とおっしゃっていただくことがあります。初めての世界に引き込まれて、コーヒーの味わいをはじめとする五感の体験に没入されているように思います。
伊藤: 什器の下には、K-ARRAY Rumble-KU26という低音域専用のサブウーファーを2台設置しています。サブウーファーが低音をきちんと支えることで、高い音が天井からキラキラと際立って聴こえてくるんです。
銭: サブウーファーは床近くに設置したこともあり、実際に鳴っているかは判別できないほどですね。
伊藤: サブウーファーを設置したことで、すべての音がなめらかに美しく聴こえるという効果があります。下から音が鳴っていることが分からないように音響的な調整を施しています。
銭: 天井から落ちる音に耳を澄ませながらコーヒーを味わうと、心の浄化も進みそうです。より凛とした空間体験につながりますね。
「この音楽はどこから……?」隠されたスピーカーから、ポップな音が流れる1階
1階 FLOW コーヒーやソフトクリーム、ペイストリーのテイクアウト
銭: 流れ(Flow)と名付けられた1階は、お客様を迎える顔となる階です。音質を求めつつも、スピーカーの存在を感じさせない空間づくりを目指しました。
ご提案いただいたのが、アメリカ製のSonance Invisibleシリーズ IS8Tという隠蔽型スピーカーです。壁のなかに設置し、左官仕上げで塗り込んで見えなくすることで、インテリアに焦点が当たる空間に仕上がりました。スピーカーを両壁に各1台ずつ入れているため、最終的に空間のなかで音が広がって残響が感じられますね。それは伊藤さんの狙いかもしれません。
日本レディフュージョン 伊藤寛武
伊藤: もちろん、そのような効果を狙ってはいたのですが、天井も含めてここまで空間全体が響くように聴こえるようになるとは予測できませんでした。
スピーカーを、耳の高さより上に付けたことも影響しているかもしれません。音像が上からふわっと聴こえるように調整しています。
また、BGMは通常モノラルで再生することが多いのですが、こちらではステレオで再生しています。右側と左側のスピーカーから流れる音は少し異なっており、それゆえにしっかりとした音の存在感が出ることを狙っています。
銭: 天井に取り付けるスピーカーもあるのですが、ありきたりな空間になりそうで、もう少しコンセプチュアルな音響設計をお願いしたい、と今回は伊藤さんに伝えました。
ここはテイクアウトの階ということもあり、アップテンポで低音を効かせた音が流れていますね。他の階と比べてポップな音質を感じます。
佐々木: 多くのお客様には、壁にスピーカーが埋め込まれていることはわからないと思います。テイクアウト メインフロアということもありお客様の滞在時間は短いです。パッと入店されてインテリアの写真を撮って行かれる方も多いですね。
初夏の晴れた日は、すぐ外にある岩のベンチで過ごされるお客様も多く見かけました。お店のドアが開いているので、流れる音楽もお楽しみいただいていると思います。
イベントで、音楽が主役になる夜も。厚みのある音に注目を集められる2階
2階 RESONANCE ゆっくり過ごせるミュージックバー
銭: 共鳴 (Resonance)と名付けられた2階には、レコードをかけられるミュージックバーがあります。朝や昼は心地よくリラックスできる音楽を流しますが、夜になると、例えばDJを招いた音楽イベントに対応するといった用途を考えました。
そこで伊藤さんには、音に包み込まれるようなサウンド体験へと誘うフランスの音響メーカーL-AcousticsのSOKA in Wallをご提案いただき、2台設置しています。
伊藤: 一般的にミュージックバーというと大きなスピーカーがどーんと置かれて存在感を放っていることが多いのですが、そのようなスピーカーと遜色ないほどの音質やパワーを備えながら壁に埋め込めるタイプというと、L-Acoustics SOKA in Wall以外は考えられなかったですね。
1台目はスタッフが立つミュージックバーの背面に、2台目はエレベータ―から入ってすぐの位置に設置しました。2台目の下部には、L-Acoustics SB10r in Wallという同じく壁面埋込型で、低音域専用となるコンパクトなサブウーファーも設置しています。
銭: パースをお見せした後に、ソフトウエア( L-Acoustics 3Dシミュレーションソフトウェア「Soundvision」)で図面を取り込んでシミュレーションしてもらい、最適な位置を検討してもらいました。どのように音が聴こえそうかといった想像力も必要でしたね。
伊藤: 例えばDJが立つ後ろに設置すると、スピーカーの音がDJに当たって吸収されてしまいます。しかし中央の接客スペースに配置すると、今度はお客様とスタッフの方のやり取りの妨げになるんです。さらに窓際の方にも音楽を届けることを考えて、どのあたりに、どのくらいの音量が届くかを検討して位置を決めました。
佐々木: コーヒーと音楽を味わいながらゆっくりと過ごしていただきたいフロアが、2階になります。スタッフもバーカウンターを通して、流れてくる音楽のエピソードを時折交えながら、お客様とのやり取りを楽しんでいるように見えますね。日が落ちるとムーディーになって、朝や昼とはガラッと雰囲気が変わるんですよ。
伊藤: じつは今回、壁埋込型スピーカーのSOKAを、日本で初めて導入しました。
L-Acousticsのスピーカーは、通常、ライブハウスやクラブ、音楽フェスなどで使われているんです。約1年前、海外で開催されていた音響機器の展示会で壁埋込タイプのSOKAを知り、いずれ取り入れてみたいと考えていました。
音楽が主役になるシーンを想定すると音質とパワーは欲しいけれど、空間を邪魔しないスピーカーを設置したい――。それであれば、L-Acoustics SOKA in Wallがちょうどこのフロアにマッチするのではないかと思ってご提案しています。
音楽はコーヒーを引き立たせる名脇役。ぜひQUAROで、五感を取り戻す体験を
対談は地下1階 瑞々しい緑を感じる空間で
銭: QUAROが出来上がって実際に音響が入ると、“五感のなかの1つの感覚が完成した”という感覚が生まれました。インテリアを支えるような役割を期待しながら音響設計を依頼したのですが、満足度100%になりました。
伊藤: もともと意匠性の高い洗練された空間ですが、音楽がしっかりと流れることで有機的なカフェ空間となり、その居心地の良さを感じていただけるのではないかと思います。そしてQUAROのコンセプトでもある五感を呼び覚ます役割も、果たしていくのではないかと。
音楽はカフェにおいて主役ではありませんが、今回の音響設計を通して、各階のコンセプトを支えることができ、貴重な経験をさせてもらったと感じます。
銭: コーヒーの味わいや香り、実際に聴こえてくる音、そして五感を取り戻すような体験は、文章や写真だけでは伝わらないので、ぜひ現地にいらしてください。
佐々木: 地下1階のコーヒーコースは完全予約制です。ご予約は、TableCheckでのオンライン予約にて承っております。
また、コースは完全予約制ですが、ウォークインでフィルターコーヒーをお楽しみいただける営業日もご用意しております。開催日につきましては、QUARO公式Instagramをご確認ください。
限られた方のみが体験できる特別な空間となっておりますので、ぜひご体験いただけますと幸いです。
<終>
QUARO
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-25-32
https://quaro.jp/
コーヒー特別コース(地下1階) お一人様 19,800円
パナマ産ゲイシャをはじめとする最高級のコーヒー豆2種類(※時期により内容は変更)を使用した特別なコースです。
フィルターコーヒー、エスプレッソミルクビバレッジ、シグニチャードリンクなど、全5杯のコーヒーを飲み比べながら、それぞれの個性や味わいをお楽しみいただけます。
また、お客様ご自身で焙煎機を使用した焙煎体験も行っていただき、焙煎したコーヒー豆はお持ち帰りいただけます。
※空間の貸切や、プライベートセッションでのご利用も可能です。
※詳しくはQUAROまでお問い合わせください。
※この情報は2026年7月時点です。
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佐々木 彩人 / Ayato Sasaki 氏
QUARO マネージャー
オーストラリアでバリスタとして経験を積み、ヘッドバリスタを歴任。帰国後は店舗マネジメントや焙煎を学び、カフェの立ち上げにも携わる。2026年2月よりQUAROの創業メンバーとして参画し、コーヒーを軸に店舗全体の運営管理やメニュー開発、焙煎まで幅広く手がけている。
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銭 嘉玥 / Kagetsu Sen 氏
SUPPOSE DESIGN OFFICE
建築家・インテリアデザイナー中国・上海出身。同済大学卒業後に来日し、東北大学大学院を修了。
UDS株式会社を経て、2020年よりSUPPOSE DESIGN OFFICEに所属。
建築からインテリアまで領域を横断し、日本国内外でホテル、商業施設、オフィス、住宅など幅広いプロジェクトを手がける。主な担当作品に、「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」「渋谷区ふれあい植物センター」「QUARO」「STUDIOUSシリーズ」など。
プライベートでは音楽活動も行い、音楽と空間の双方の視点から心地よい体験づくりを探求している。 -
伊藤寛武 / Hiromu Itoh
日本レディフュージョン株式会社
システム営業部 マネージャー2023年より日本レディフュージョンに入社し、音響/映像設備の設計を担当。
社業の傍ら、作編曲家、フルート奏者としても活動している。
東京藝術大学卒業。
施工:Studio × SET UP
設計:SUPPOSE DESIGN OFFICE 吉田愛、SANNA LORENZO、銭嘉玥
飲食ディレクション・開業支援:unité
コーヒーディレクション:石谷貴之
コーヒー豆開発: 小川珈琲
アートディレクション:Vertigo Inc.
VI・ブランディング:安田昂弘
映像:橋本 麦
家具:etc inc.
音楽:ELLA RECORDS
照明計画:HIBIKI
シャンデリア照明設計:inLighten
和紙:ハタノワタル
石:SOW
左官:ADDICT
音響:日本レディフュージョン
外構植栽:SOLSO